日本写真学会では毎年、日本国内において、写真およびそれに関連する分野の科学技術の進歩・発展、そして本学会に貢献された方々を表彰しています。
今泉 祥子氏
近年コンピュータの高性能化と画像加工技術の高度化に伴い、ディジタル画像の編集が容易になっている。このことは一方で、画像に対する改ざんが容易になっていることを意味する。この問題に対して、画像が改ざんされていないこと、すなわち、画像の真正性を確認するための改ざん検出法が研究されてきた。これまでに、電子署名や電子透かしを用いた改ざん検出手法が多く研究されている。
一方向性関数のハッシュ演算を用いて演算処理の軽量化を図り、さらに,改ざん位置の特定制度を可変とすることで演算量の制御を実現して、ユーザ要求に応じた柔軟な改ざん検出手法を研究することにより、デジタルアーカイブが一般化される。この手法は博物館、美術館をはじめ多大な文化資源がディジタル化される現代において、保管コンテンツの真正性をより容易に、より高速に認証可能とするセキュリティシステムの構築に大きく貢献すると期待され、よって本奨励金を交付する。
略歴
今泉祥子(いまいずみ しょうこ)
山田 勝実氏
電子ペーパーまたは電子書籍は、液晶、有機EL等各種の表示方式により製品化が行われている。これらの表示デバイスには、太陽光下での視認性の確保及び長時間使用に対する眼精疲労の低下も重要な条件であり、エレクトロクロミック(EC)反射方式の表示が適している。ポリカーボネート膜や陽極酸化アルミ板にナノサイズ直径の空孔を貫通させたものは、機能材料のナノ構造を得るための鋳型として用いることができる。
山田氏はこのようなテンプレート法を用いて、無数の金ナノロッドが金薄膜上に直立した状態(ナノロッドアレイ)の電極を作成し、導電性高分子薄膜をナノロッド表面に同心円状に電解重合で固定化した複合体のEC特性を検討して、ポリピロールおよびポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を用いた場合に強い着色と優れた応答性を同時に実現した。これは、数十ナノメートルの膜厚で導電性高分子を高アスペクト比(〜1:100)ナノロッドの表面に固定化することにより、最大光路長で5〜 10μmにおよぶEC材料膜の断面への光入射・吸収を利用できたため、強い着色が得られたことに起因する。
このように優れたEC 特性をもたらす金ナノロッドアレイ膜は、カラー表示および動画表示が可能な表示ディスプレイに発展する可能性を有しており、そのための最適化が必要である。特にロッドの太さ、長さ、方向及び密度等の形状の条件は、光反射特性に直接影響するため、異なる形状のテンプレートから得られる金ナノロッドアレイ膜の光反射特性やコアキシャル複合体のEC特性を比較検討することが重要である。このように金ナノロッドアレイ膜によるEC 材料の検証は、EC 材料のさらなる薄膜化・表示の高速化が可能であると期待され、よって本奨励金を交付する。
略歴
山田勝実(やまだ かつみ)
和崎 浩幸氏
画像の高画質化にあたって、画像に含まれるノイズの除去は重要な処理の一つである。ノイズの除去技術は、一昔前には画像に対して均一なフィルタリングを行う手法であったのに対して、近年では画像の局所情報に応じて適応的にフィルタリングを行う手法が主流である。これは、フィルタリング強度を増せばノイズの除去はできても、原画像に含まれる細部構造が破壊されてしまう副作用があるからである。
しかし、それらの適応的フィルタリング手法においても、ノイズ知覚特性を充分考慮せずにフィルタリングのパラメータを決定しており、原画像の復元の観点からは目的にかなった手法と言えるが、最終的に人が画像を鑑賞することを目的とする場合には必ずしも適切な手法とは言えない。最終的な目的が画像を人が鑑賞する場合には、人のノイズに対する知覚感度を考慮する必要がある。画像の高画質化に関して、信号処理的な精密さだけではなく、それに人のノイズ知覚感度を導入することで、人の知覚に適合するノイズ除去や画質評価への応用を可能とすることがポイントとなる。
和崎氏は、これまでにノイズ知覚感度の主観評価実験による調査を行い、ノイズ知覚感度モデルを作成してノイズ除去に応用してきた。その中で大きな色空間に対してノイズ知覚感度を算出する基準となる主観評価実験データを得ることは、モデルの精度向上に重要であり、データの拡充を行う必要がある。
本研究は、カラー画像における背景色に対するノイズ知覚感度の研究により、より精度の高いノイズ知覚感度モデルを構築することができると期待され、よって本奨励金を交付する。
略歴
和崎浩幸(わさき ひろゆき)